気流止め|断熱リフォームの最重要ポイント|断熱リフォームの匠

コラム

投稿日 2018.06.04 / 更新日 2022.12.28

断熱材

気流止め|断熱リフォームの最重要ポイント

気流止め

WRITER

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矢崎 拓也

環境省認定うちエコ診断士

大学卒業後、断熱にまつわる資格をいくつも取得し、自ら調査や補助金申請の手配、セルロースファイバーの施工から窓の取付まで行える業界でも異色の人物。「日本中の住宅性能の低さを解決したい!」と大きな夢を原動力に戸建住宅の断熱リフォームに取り組む。

こんにちは、《断熱リフォームの匠》の矢崎です。

今回は断熱リフォームにおいて必要不可欠な「気流止め」についてお話ししていきます。

”気流止め”という言葉にはあまり馴染みがないかも知れません。

しかし実は気流止めは断熱リフォームの肝心要と言っても過言ではありません。

絶対に知ってほしい断熱知識ですので、知らない人はぜひこのページを読んで学んでいただけると嬉しいです。

気流は住宅の厄介者!?

気流止め
日本の木造住宅では、換気口から入り込んだ外気がそのまま壁内を通って小屋裏まで流れ込むような構造になっているケースが非常に多いです。

この空気の流れのことを「気流」といいます。

建物の中を通る空気と聞くと「換気がよくなる」といったいいイメージを持つかも知れません。しかし実は建物にとって気流はとても厄介な存在で、良いことは全くありません。

2つの具体的な理由を挙げてみましょう。

断熱材の効果が発揮されない

階段室の気流止め
床下の空気が壁内に流れ込むことと室内の寒さとは実は大きな関係があります。

というのも、床下と外の空間とは通気口や基礎パッキンで繋がっており、床下の空気は外気とほぼ変わりありません。

その空気が壁内に入り込み、壁を通して室内の熱をどんどん奪ってしまうのです。

「壁の中に断熱材を使っていれば大丈夫なのでは?」と思うかも知れませんが、冷たい風は断熱材の隙間を通り抜けて流れていきます。

断熱材は壁と冷たい空気との間に挟まりクッション役となることではじめて効果を発揮します。

その断熱材と壁の隙間を冷たい空気が常時流れ続ける訳ですから、断熱材が意味をなしていないのは想像に難くないと思います。

いくら壁内に高性能な断熱材を設置したとしても、気流止めの存在を無視してしまってはその役割を十分に果たすことはできないのです。

カビや腐れの原因になる

建物に空気の流れがあるということは、一見カビの発生を防止するようないいイメージがあるかもしれません。

しかし実は、むしろ気流が原因となってカビや腐れを引き起こしてしまう場合があります。

床下から冷たい空気が床下の湿気と共に壁内に入ってきて、暖房されて暖かくなった壁の石膏ボードの裏面を通るので、温度差により石膏ボードの裏側等の壁の中や、壁の室内側の表面や、壁近くの床の表面等で結露が発生します。

結露は木材を腐らせ、壁の中でカビ等を発生させてしまう要因にもなります。

木材がカビや腐朽などにより劣化すると、建物の強度そのものに影響を及ぼすこともありますので、そもそも冷気流を壁の中に入れない方が正しい家の状態なのです。

昔ながらの考えの大工さんの中には、「壁に断熱材なんか入れたら家が腐る」という考えを持っている方もいらっしゃいますが、これは半分正解と言えます。

冷気流が入る状態のまま断熱材を壁の中に詰め込むことは良いことではないからです。

ただし、気流止めがされていない住宅は、言わば「隙間風だらけの家」ですので、実際に住んでいる人は寒くて過ごせないのではないでしょうか。

壁の中に断熱材を正しく詰め込み、尚且つ気流止めがしっかりとされている住宅こそが、本来の正しい状態というわけなのです。

住宅を寒さや暑さから守る気流止め

気流の存在が住宅にとって悪影響であることはこれでお分かりいただけたかと思います。

気流止めは、床下や小屋裏と壁とを空間的に隔てるための措置であり、木材や繊維系断熱材、気密材などが素材として使われます。

気流止めをすることで断熱性能は向上し、壁内での結露も起こりにくくなります。

冷たい空気が壁の中に入り込まなくなるのですから、当然と言えば当然ですよね。

逆にいえば、住宅の断熱性能低下や壁内のカビ腐れといったリスクを避けるためには気流止めは絶対に必要な工程なのです。

気流止めのない家が多い日本の住宅


住宅にとって非常に大切な存在の気流止めですが、日本のほとんどの家では気流止めの施工がされていません。

原因となっているのは、気密性能に対する基準値の低さです。

海外では非常に厳しい気密性能の基準が定められており、基準を満たしていない住宅には罰則まであるほどです。

一方日本の基準は甘く、その基準を満たしていないどんな隙間のある住宅だったとしても罰せられることはありません。

確かに気密性能の低さは建物の倒壊に繋がるような欠陥ではありません。

しかし断熱性能が重要視されている現代の住宅において、気流止めをはじめとした気密の対策は必要不可欠です。

ただ単に性能の高い断熱材を使えばいいという訳ではなく、しっかりと気密のことを考えて気流止めの対策をすることが、住宅をより長持ちさせ、住宅環境の改善にも繋がります。

気流止めに起こりがちな誤解


気流止めで空気の流れを止める、と聞くともしかすると「壁内の空気がよどんでしまい、結露やカビが発生してしまうんじゃ?」といったマイナスなイメージを持たれるかも知れません。

しかしそういったことはないためご安心下さい。むしろ気流止めをすることで、結露やカビの発生を防止することに繋がります。

そもそも気流止めは「どこの」空気を止めるのでしょうか。それは床下・壁内間の通気と小屋裏(屋根裏)・壁内間の通気です。

この「壁内の通気のみの気流」を止めることがポイントです。

なぜ壁の中でカビや結露が発生するかというと、そもそも湿気を含んだ空気が壁の中に入ってしまう状態にあるからです。

築25~30年以上の住宅は、多くの場合は床下が露地(土がむき出し)のまま家が建てられています。この土から湿気が上ってきたり、あるいは湿度の高い既設には基礎換気口から床下に湿気を含んだ空気が流れ込んできたりします。

この湿気は本来、換気口から入ってきても、反対側の換気口から排出されますので、大きな問題にはならないはずです。

ところが、床下から壁の中に空間がつながっているままだと、本来は流れ込んで来ないはずの湿った空気が、床下の換気の流れを無視して壁の中まで入ってきてしまうのです。

気流止めは、この「もともとは入ってこないはずなのに入ってきてしまっている湿った空気」を防止することに繋がりますので、むしろ結露やカビの発生は抑えられることになるのです。

徐々に気流止めがいかに重要なのかお分かりになってきたのではないでしょうか?

壁内の空気の流れを止めることでデメリットはありません。気流止めをすることで、安全に住宅の性能を高めることができるのです。

気流止めが必要な箇所

床下


こちらは床下から外壁側の基礎方向を撮った写真です。矢印の部分で床下と壁の内部が繋がっており、ここから床下の冷たく湿った空気が壁内へと流れていきます。

外壁沿いの壁内には断熱材が入っていることがほとんどですが、断熱材があるからといっても気流止めが必要ない訳ではありません。

気流止めがない状態で壁内に断熱材を入れても、空気がその合間を通り抜けてしまうため、断熱材は本来の性能を発揮できなくなってしまいます。

間仕切り壁(部屋を仕切る壁)の下にも空気の通り道が存在します。間仕切り壁内には断熱材は普通入っていませんので、特に空気が流れやすい場所です。ここはしっかり気流止めを施工する必要があります。

床下から階段を見た写真です。建物によっては階段下が床下と同じ空間として作られることがあります(階段下物入れなどとして使用しない場合)。この場合、階段下は人が立てる大きな空間となっています。

写真では壁に断熱材が施工されていますが、よく見ると断熱材と階段の間に隙間が生じています。このような隙間からも、床下の湿った冷たい空気が入っていきます。

小屋裏

小屋裏の気流止め
小屋裏は、外壁沿いを確認するのは構造的にむずかしいのですが、基本的に床下と同じく隙間があります。床下から直接空気が小屋裏まで流れてくるのがこの写真を見れば分かりますよね。

また、夏場の強い日差しに照りつけられると、小屋裏空間は50℃から60℃近くの高温になります。

気流止めが無いと60℃近い温度の空気が壁内に直接伝わることになります。夏に天井や壁沿いが暑く感じるのはこのためです。

間仕切り壁も同様です。特に夏場の熱い空気が壁内に伝わり2階のお部屋を不快にさせています。

熱帯夜の夜に2階がいつまで経っても涼しくならない状態に心当たりはありませんか?

これは高温になった屋根裏から、夜通し熱い空気によって室内が温められているからなのです。

室内では冷房を付けていても、天井そのものがまるで暖房のような役割を果たしていては、中々涼しくなりませんし、冷房を切った途端に室温がぐんぐん上がってしまうのはこのためなのです。

気流止めの素材


《断熱リフォームの匠》では気流止めに「袋入りのグラスウール断熱材」を使用していますが、その理由についてもお話ししておこうと思います。

極端な話、気流止めは空気の流れさえ止めれるのであればどんな素材でも構いません。

しかし実用性のある素材となると、木材、気密テープ、袋入り断熱材、発泡ウレタンフォームなどになるでしょう。

《非破壊工法》による後付けの気流止めとなると、選択肢はさらに絞られてきます。

私の経験上、木材を使用して床下から気流止めを施工するのは非常に困難です。

もちろん、壁や床を剥がす大工事なら木材は有効だと思います。しかし、既存の床を壊さずに床下から気流止めを施工するとなると、小さく入り組んだ隙間を木材で埋めていくのははあまりに非効率的です。

発泡ウレタンフォームは細い隙間に使う場合とても良いのですが、床下から斜め上方向に向けて吹き付けるのが非常に難しい作業となります。

床下空間の特性上、ノズルに土が付着して詰まることもあります。また、冬場は寒さの影響で上手くウレタンフォームが発泡しないため、取り扱いには慣れが必要です。

こういった諸々の事情を考慮して、断熱リフォームの匠では気流止めの施工方法に袋入りのグラスウール断熱材を使用しています。

気流止めの施工方法

 

最後に、具体的な気流止めの施工方法をご紹介していきます。

まずは袋入りの断熱材を予めカットし、はめ込み易いサイズにした上で床下や小屋裏に搬入します。

いずれも隙間が出来ないようにガッチリ袋入りの断熱材を詰め込みます。

実はこの袋には裏表があります。

気流を止めるのが目的ですので、ただ断熱材を詰め込めば良いわけではなく、袋入り断熱材の気密層側を山折りにして気流を止めます。

見た目はすごく簡単な作業に見えますが、気流を止めることを考えて施工しないと意味がありません。

気流止めに関しては見栄えよりも性能を優先して施工をすべきでしょう。

まとめ


気流止めについてご説明しましたがいかがでしたか?作業そのものはとっても地味なものですが、気流止めは断熱リフォームにおいて非常に重要な施工です。

一般的な木造の住宅では、その構造的にほとんどの家屋で気流止めが不十分なのは明らかです。これは国の客観的なデータだけではなく、実際に私たちが行っている無料断熱診断でも感じているところではあります。

せっかく断熱リフォームをしても、気流止めが見逃されていたら全く意味がありません。しかしながら気流止めについてはあまり知られていないですし、住宅のプロでもまだまだ詳しい人は少ないです。

少しでも正しい知識が業界に浸透し、しっかりと断熱材の恩恵を受けられる人が少しでも増えたらいいなと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。